59 事実は問答関数である(20220204)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

まず、前回の宿題に手短に答えたいと思います。

#客観的推論的関係と主観的推論関係の相互的意味依存を問答推論関係に拡張する

・前回述べた二種類の語彙の相互的意味依存は、問答推論においても成立します。

客観的な問答推論関係を語るには、真理様相語彙に疑問表現語彙(疑問詞にくわえて、疑問文形式も含まれることにします)を加える必要があります。そして、主観的な問答推論関係を語るには、義務的規範的語彙に疑問表現語彙を加える必要があります。つまり通常の推論関係を問答推論関係に拡張することは、語彙の側面がらみると、真理様相語彙と義務的規範的語彙のそれぞれに疑問表現の語彙を加えるだけです。したがって、もし真理様相語彙が規範的語彙に意味依存するならば、それらにそれぞれ疑問表現語彙を加えた語彙もまた、意味依存することになります。したがって、客観的問答推論的関係と主観的問答推論関係は、相互に意味依存することになります。

では、このように拡張した上で、ブランダム=ヘーゲルの「概念実在論」を受け入れることができるでしょうか。気になるのは次のような存在論的な問題です。

#「概念実在論」の存在論的問題

客観的事実(fact)ないし事態(state of affairs)が概念的に構造化(ないし分節化)されているとしましょう。事実は確かに、それと両立不可能な他の事実がなければ、一定の規定性をもちません。またある事実は、それから帰結する他の事実がなければ、一定の規定性をもちえません。「これはリンゴである」は「これはナシである」とは両立不可能です。また「これはリンゴである」からは「これは食べられる」が帰結します。このような関係は無数にあります。このような関係は、私たちが採用する言語や理論が異なれば、異なります。勿論、このような関係は私たちが言語で語らなくても成立するし、私たちが「リンゴ」「ナシ」「食べられる」「これ」などの語彙を持たなくても成立するものとして考えられています。

 「リンゴ」という語がなくても、「これはリンゴである」という事実が成立しているとは、どういうことでしょうか。それは「もし「リンゴ」という語があれば、私たちは「これはリンゴである」と語ることができる」と言うことでしょうか。

 事実は、無限に多様な仕方で語れる無限に多様な構造をもっているということでしょうか。この場合次のように考えることもできます。

 事実が、「これはリンゴである」あるは「これはリンゴであり、ナシではない」という概念構造を持つのではなく、事実は「これはリンゴですか?」と問われたら「はい、これはリンゴです」という答えを返し、「これはナシですか?」と問われたら「いいえ、これはナシではありません」という答えを返す関数である。

つまり、事実とは、ある問いの入力に対して、ある答えを出力する関数であると見なすことができます(このように問いを入力として答えを出力とする関数を「問答関数」と呼ぶことにします。このような問答関数としては、後に述べるように事実以外にも考えられます。)

 ここに3つの可能性があるでしょう。

 ①事実は、このような問答関数である。

 ②事実は無限に多様な仕方で概念的に構造化されている。言語化されている概念構造はその一部である。

 ③事実は、問答関数であり、同時に、無限に多様な仕方で概念的に構造化されている。

 

 ②や③を語ることは、事実そのもののあり方についての語ることであるので、それを正当化することは、難しそうです。①が最も正当化するときの負担が軽そうです。他方で、①は問答関係を事実によって正当化できるので、観念論や強い構成主義のような説明上の負担も免れることができます。

 ①は、客観的事実が概念的に構造化されているとは考えませんので、「概念実在論」ではありません。事実の概念構造を、問答推論的関係と考えるとしても、そのような問答推論的関係が実在すると考えるのではありません。問答推論的関係は成立するのですが、それは<人が問いを立てたとき、ある問答関数(=事実)に基づいて、ある答えが与えられる>という仕方で成立するのであって、事実の構造として成立するのではありません。事実について言えることは、一定の問答推論関係を成立させる問答関数であるということだけです。その問答関数がどのようなものであるかは、入力と出力を介してしか理解できません。この①のような主張を、とりあえず「問答関数実在論」と呼ぶことにします。

ところで、認識において最も重要なことは、認識内容をチェックすることです。もしある信念や予測をチェックできないとすれば、それは認識とは呼べません。チェックできるものは、真である可能性と偽である可能性を持ちます。

次回は、この「問答関数実在論」を採用した上で、どうやって認識内容をチェックするのかを説明したいと思います。