111 問答関係に基づいて推論規則を正当化する(Justifying inference rules based on question-answer relations)(20240309)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

私たちは、論理的語彙の定義に依拠して、推論や推論規則を正当化することができます。論理結合子(¬、∨、∧、→)の意味を真理表で定義して、それによって、推論規則が恒真であることを証明できます。また、これらの導入規則と除去規則を定義して、それによって、推論規則を導出することもできます。通常はこのようにして推論規則の正当化がおこわわれているので、それを、推論の妥当性の定義依拠説と呼ぶこともできるでしょう。

 この場合の問題は、論理的語彙の使用法のこの定義の適切性です。導入規則と除去規則を定義して論理体系を作るときに問題になるのは、Priorが指摘したように、その定義の恣意性を制約しなければ、役に立たない体系になってしまうのです。そこでN.Bernapが提案したように、論理的語彙の導入規則と除去規則は、保存拡大性をみたす必要があります(これについては、これまで講義ノートや『問答の言語哲学』で何度か説明してきました)。ただしこれ以外の制約はなく、保存拡大性を充たせば、後は自由に恣意的に偶然的に定義できることになります。どうして私たちは、現在使っているような論理的語彙をつかうのか、説明できません。例えば、私たちが日常生活では、シェーファーの棒記号(nand、nor)を私たちが使っていないことの説明ができません。

 そこで、以下では、<問答を行うときに私たちが暗黙的にある推論規則を前提としていること>を示すことによって、<問答関係に基づいて推論規則を正当化する>こと、さらに<私たちが日常の思考、問答において使っている推論規則の必然性を示す>ことを試みたいと思います。

・問答における暗黙的な同一律と矛盾律

  同一律「pならばp」

  矛盾律「pであり、かつpでないことはない」

この二つは、「pですか」と問うことが、暗黙的に前提としている規則です。なぜなら「pですか」と問うことは、答えとして「はい、pです」と「いいえ、pではないです」の二つが可能であることを暗黙的に前提としており、そのことは同時に、答えの中の「p」が問いの中の「p」と同一であることと、「pであり、かつpでないことはない」を暗黙的に前提としているからです。

・MPもまた問答関係の中に暗黙的に前提されています。

  「rですか」「はい、rです」

という問答があるとしましょう。すべての問いは何らかの前提をもちます。そこでこの問いがpを前提としているとします。この前提pを明示化すれば、上の問いは「pのとき、rですか」となり、上の答えは「はい、pのとき、rです」(p→r)となります。

 「rですか」という問いに、「はい、rです」と答えるときには、問いの前提「p」と暗黙的に成立する「p→r」から、答え「r」を導出しています。つまり、p、p→r┣rという推論を行っています。問答が成立するときには、この形式の推論(つまりMP)を暗黙的に前提としているのです。

以上のように、<問答が暗黙的に基本的な推論規則(同一律、矛盾律、MP)を前提としている>とするとき、その暗黙的な推論規則を明示化した推論規則を否定することは、問答を不可能にするでしょう。したがって問答をおこなうためためには、これらの推論規則を認めることが必然的です。このようにして、私たちは、これらの推論規則を、問答関係の超越論的条件として正当化できるのです。

次回からは、このような「真理の定義依拠説」(命題の真理を定義に依拠して正当化するという主張)について吟味するために、予想される反論について検討したいと思います。