[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
「何」の導入規則と除去規則については、前に(23回)つぎのように説明していました。
疑問詞「何」の導入規則と除去規則は、「その花の色は何ですか」の例の場合、次のようなものです。
「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか」
「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」 (Γは平叙文の列)
「どれ」の場合と同じように、除去規則は、問いを前提に含む推論、つまり問答推論の規則になっています。しかし、導入規則の方は、前提に問いを含んでいません。つまり、これは問答推論システムでの導入規則になっていません(22回での説明が不正確だったのです)。このような推論において潜在的にはたいているはずの相関質問を補うなら、例えば次のようになるでしょう。
「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」「その花はバラです」┣「その花の色は何ですか?」
これに続けて導入規則
「その花の色は何ですか?」、Γ┣「その花の色は、赤です」
を適用すると、次の推論になります。
「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」、「その花はバラです」、Γ┣「その花の色は、赤です」
しかしこの結論は、最初の前提の問いの答えにはなっていません。つまり冒頭の問いに対する答えに至るには、ここでの結論を前提に加えて、それをもとに冒頭の問いに答える必要があります。
たとえば、それは次のようになるでしょう。
「開発中の新しい品種は、どんな花ですか?」、「その花はバラです」、Γ、「その花の色は、赤です」┣「開発中の新しい品種は、赤いバラの花です」
冒頭の問いに対する答えに至りついたとき、この問答推論は完成します。そしてこの問答推論は、「その花の色は赤です」という前提があれば、「その花の色は何ですか?」という問いがなくても成り立ちます。なぜなら「その花の色は赤です」を答えとする相関質問は、他ものでもよいからです。例えば「その花の色は赤ですか?」「その花の色は、赤ですか黄色ですか?」「赤い花はどれですか?」「赤いものはどれですか?」などです。したがって、「その花の色は何ですか?」という問いや疑問詞「何」は、他の表現の意味に変化をもたらさないということです。これらは保存拡大性をもちます。
#疑問詞「なぜ」の導入規則と除去規則
これについては、前に(20回)に次のように説明しました(その時と少し表現が違います)。
<出来事の原因の「なぜ」の導入規則>
「出来事pが起きた」┣「なぜ出来事pが起きたのか?」
<出来事の原因の「なぜ」の除去規則>
「なぜ出来事pが起きたのか?」┣ 「Γ┣「出来事pが起きた」」
問答推論は、推論の結論を答えとする相関質問を、冒頭の前提として設定すべきです。「なぜ」の除去規則の結論は、命題ではなく推論であるが、前提には、その推論の相関質問が設定されているので、問答推論とみなしてもよいでしょう。しかし、導入規則は、結論の相関質問が前提にないので、それを明示化して補う必要があります。
例えば、次のようなるでしょう。
「出来事pの責任はだれにあるのか?」「出来事pが起きた」┣ 「なぜ出来事pが起きたのか?」
これと次の除去規則
「なぜ」の除去規則:「なぜ出来事pが起きたのですか?」┣「Γ┣「出来事pが起きた」」
を連続適用すれば、次のようになります。
「出来事pの責任はだれにあるのか?」「出来事pが起きた」┣ 「Γ┣「出来事pが起きた」」
冒頭の答えを得るためには、上の結論を前提に移して、そこから結論を引き出す必要があります。例えば、次のようになります。
「出来事pの責任はだれにあるのか?」、(Γ→「出来事pが起きた」)、⊿┣「出来事pの責任はXにある」
この問答推論が正しいかどうかは、Γと⊿の内容に依存します。この問答推論が成立するには、前提「Γ→「出来事pが起きた」が必要ですが、この前提を得るための相関質問は「なぜ出来事pが生じたのか?」であるとは限りません。他にも「Γが成り立つとき、何が生じたのか?」、「Γが成立するとき、出来事pが生じたのか?」「Γが成立するとき、出来事pが生じたのか、出来事qが生じたのか?」なのかなど、多くの問いに対する答えとなり得ます。つまり、「なぜ出来事pが生じたのか?」という問いや疑問詞「なぜ」を使用しなくても、この問答推論は成立します。したがって、「なぜ出来事pが生じたのか?」という問いや疑問詞「なぜ」は、他の表現の意味に変化を与えず、保存拡大的です。
行為の理由の「なぜ」、主張の根拠の「なぜ」についても同様の仕方で説明できるでしょう。
以上が、<論理的語彙と疑問表現が、保存拡大性をもつ>ということの説明です。
これは重要な論点ですので、次回は、以上の説明で十分であるかどうか、もう少し考えたいと思います。