<もしすべてのものが空ならば、生滅や因果関係ということはなく、輪廻転生ということもなく、四聖諦も成立しなくなるだろう>というような中論への反論は、それは「空」の中途半端な理解に基づくものである。実体として存在するものについては、その変化や因果関係を説明できない。変化や因果関係は、むしろ空によって理解可能になるのである。このことは、自我についても同様であり、もし自我が実体として存在するのならば、それの生滅を説明することはできなくなる。自我が生滅することは空によって説明可能になるのである。(参照、『中論』「第24章 4つの優れた真理の考察」(中村元『龍樹』 講談社学術文庫、378-384, Fundamental Wisdom of Middle Waytranslation and commentary by Jay L. Garfield, Oxford UP)
もしこれが<分別思考(conceptualthought)のあるところ、五薀や煩悩や業が生じ、煩悩や業の主体である自我も存在する。しかし、空において分別思考は消え、自我も消える>という意味であるとしよう。そして、これが「世俗の覆われた立場での真理(a truth of worldly convention) 」と「究極の立場からの真理(an ultimatetruth)」(第24章8、『龍樹』379、MiddleWay, 68)に対応するのだとしよう。このとき、<自我や苦や煩悩や業や縁起や輪廻転生が成立するのは、分別思考にとってであり、空においてはそれらは存在しない>ということになるだろう。
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