[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]
本書第1章では、命題内容の意味を問答推論関係として説明しました。第2章では、命題の特定文脈での発話の意味について説明しました。言い換えると発話が焦点を持つとはどういうことかについて説明しました。焦点位置の違いは、命題内容の与えられ方の違いであり、発話の意味は二重問答関係のなかで成立するということでした。第3章では、行為としての発話、言語行為を考察します。この章も3つに分かれています。3.1と3.2では、オースティンとサールの言語行為論の改良を提案します。3.3では、言語行為がどのようにして成立するのかを説明しました。
まず「3.1 質問と言語行為」では、オースティンとサールの言語行為論を紹介したのち、彼らが注目していなかった、質問発話の特殊性を説明しました。
サールは、言語行為を次のように分けていました。
(a) 発話行為(utterance act)=語(形態素、文)を発話すること(これは音声行為(phonetic act)、音韻行為(phonemic act)、形態素行為(morphemic act)からなる。)
(b) 命題行為(propositional act)=指示と述定を遂行すること
(c) 発語内行為=陳述、質疑、命令、約束などを遂行すること
(d) 発語媒介行為=発語内行為という概念に関係を持つものとして、発語内行為が聞き手の行動、思考、信念などに対して及ぼす帰結(consequence)または結果(effect)という概念が存在する。
さらに発語内行為を次のように区別していました。
(1)主張型(assertives) ┣ (p)
(2)行為指示型(directives) ! (p)
(3)行為拘束型(commissives) C (p)
(4)表現型(expressives) E (p)
(5)宣言型(declarations) D (p)
発語内行為を一般的にFとし、命題行為をpとすると、F(p)という一般的な表現になります。サールは、「質問」という発語内行為を、行為指示型の「依頼」の一種(情報提供の依頼)として説明し、それを?(p)と表記しました。
ところで、サールが強調するように、同じ命題内容でも異なる発語内行為を採ることがあります。例えば、「あなたを首にします」が、記述の場合(主張型)もあれば、約束の場合(行為拘束型)もあれば、宣言型の場合もあります。しかし、サールの表記法では、すべてとなります。
? (p)、 ┣ (p)
? (p)、 C (p)
? (p)、 D (p)
同じ命題内容の返答が異なる発語内行為を採るとすれば、それは質問がことなるからではないでしょうか。つまり質問がすでに返答の発語内行為を指定しているのです。「問いは、答えの半製品である」ということは、命題内容に関してだけでなく、発語内行為に関してもそうなのです。質問が、すでに返答の発語内行為を指定しているとすると、上記の問答は、次のように表現すべきです。
?┣ (p)、 ┣ (p)
?C (p)、 C (p)
?D (p)、 D (p)
一般的に表記すると質問と返答は、次のようになります。
?F (p)、 F (p)
以上のように、質問は、特殊な発語内行為であり、上記の5つの分類とは独立したものとして分類すべきです。
サールは、後に上記の発語内行為の5つの分類を修正していますので、本書ではもう少し詳しく説明していますが、基本的なアイデアはこのようなものです。