37 クワインへの応答 (20210913)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

 次の二段階で、クワインに応答したいとおもいます。

 まず、論理学や数学の問いの場合、それを理解し、その問いの前提を是認するとき、意味論的規則の理解と是認が含まれていると思われます。この意味論的規則とその是認が、事実的要素に基づくとしても、それを前提した上で、この問いに答える時に、この意味論的規則だけを用いて答えを導出できるとすると、この問答関係は、分析的です。

 次に、クワインが言うように、「言語一般について、意味論的規則とは何か?」とか「特定言語Lの意味論的規則は何か?」という問いに答えることができないとしても、論理学数学の問いに答える時には、暗黙的に想定した「意味論的規則」に従っています。そしてこの意味論的規則の理解と是認は、問いの理解と問いの前提の是認に含まれています。したがって、私たちが意味論的規則を明示的に示すことができなくても、その問答は分析的なのです。

#理論的な問答の二重問答関係の場合

ここで、分析・綜合の区別が二重問答関係においてどうなるのかを説明しておきたいとおもいます。

  <Q2→Q1→A1→A2>

という二重問答関係(Q2に答えるために、Q1を立てその答えA1を前提として、Q2の答えA2を導出するという関係)があるとします。この場合、Q1とA1がアプリオリで分析的な問答関係であるとします。ここで、Q1の理解とその前提の是認に意味論的規則の理解と是認が含まれており、それらがクワインの言うように事実的要素を持っているとすると、それらを前提に含むQ2とA2の問答関係は、アプリリオリで分析的なものではありえないと思われるかもしれません。しかし、Q1とA1の問答関係で使用される意味論的規則が、Q2とA2の問答関係で使用される意味論的規則に含まれているのであれば、それはQ1の理解とその前提の是認に含まれることになるので、それらの意味論的規則の事実的要素は、Q2とA2の問答関係において前提されており、そのことを考慮する必要はありません。つまり、Q2とA2はこの場合でも、アプリオリで分析的です。

 もしQ2とA2の問答関係の意味論的規則が、Q1とA1の問答関係の意味論的規則を含んでいないならば、その場合には、Q2とA2の問答関係は事実的要素に基づくことになり、綜合的なものとなります。

 以上によって、クワインの批判に応えて、言明ではなく問答関係の性質として考えるならば、分析/綜合の区別が可能であることを示せたと考えます。

 以上の議論を踏まえて、前述の対立、つまり論理学・数学の言明の「無意味性」理解(カルナップ)と、「実在性」理解(クワイン)の対立について、考察したいと思います。