42 クオリアの同一説と随伴説 (20210221)

[カテゴリー:人はなぜ問うのか?]

 前回述べたように、茂木は、クオリアとニューロンの発火パターンの同一性と随伴性の両方を主張しているように見えます。これを整合的に解釈するには、どうしたらよいでしょうか。

 これまでの茂木の記述と整合的であるのは、同一説の方だと思います。なぜなら、彼の研究の出発点になる原理は「認識のニューロン原理」であり、それは次のようなものだからです。

「《認識のニューロン原理=私たちの認識は、脳の中のニューロンの発火によって直接生じる。認識に関する限り、発火していないニューロンは、存在していないのと同じである。私たちの認識の特性は、脳の中のニューロンの発火の特性によって、そしてそれによってのみせつめいされなければならない》」(茂木健一郎『脳とクオリア』日経サイエンス社、35f)

しかしこの主張は、クオリアの随伴性を述べていた次の主張と矛盾するようにみえます。

「もし、クオリアが一定の条件の下に神経回路網という物質の振る舞いに随伴して生じるものであるとすれば、そのような可能性は、従来の物理学では考慮されてこなかった全く新しい自然法則の領域の存在を示唆するのである。」(同書、172)

もしこれを矛盾しないように読むとすれば、次のようになるでしょう。

<ニューロンの発火のパターンにクオリアが随伴するとき、発火のパターンから「全く新しい自然法則」によってクオリアが生じるのであり、クオリアは、従来の自然法則で規定された発火のパターンと同一なのではなく、そこから「全く新しい自然法則」によって生じた発火のパターンと同一なのである。>

茂木には、クオリアが、ニューロンの発火のパターンと同一であるという信念がある一方で、現在知られている既知の自然法則でとらえた発火のパターンと同一であるというだけでは、説明として不十分であるという意識があるのでしょう。しかし、これでは何の説明にもなっていません。

 次に茂木の「意識論」を紹介し、批判的に検討します。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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