30 論理的語彙と疑問表現による意味の明示化の再考 (20210831)

[カテゴリー:『問答の言語哲学』をめぐって]

前回見たように、公理p┣pは、表現pの意味を変えませんが、しかし、pの意味の成立を可能にするものです。この公理からから┣ p→pが得られます。論理結合子「→」は、pの意味を変えません。しかし、上の公理と同じような意味で、┣ p→pは、pの意味の成立を可能にするものです。その意味で、┣ p→pは、pの意味を明示化するものでもあります。pの意味はその推論関係ですが、p┣pは、pの正しい上流推論の一つであり、また正しい下流推論の一つです。

  ?p、p┣p

  ?(p→p)┣p→p

これらの推論が、pの意味の構成と明示化に役立っているのだとすると、論理結合子の導入規則や除去規則は、一般に、それ以外の語彙の意味の構成と明示化に役立っているといえるでしょう。前(21回)には、論理結合子が意味の明示化に役立つのは次のような場合と述べました。

  Aは動物であり、かつ、Aは理性的である。┣Aは人間である。

  Aは人間である。┣Aは動物であり、かつAは理性的である。

しかし、このような場合だけではないということです。そこでは次のように論じました

「形式的な推論は、そのたの言語票の意味を変えません。言い換えると、その他の言語表現の意味にとは独立に、形式的な推論が成立します。例えばp∧r┣pという推論は、pやrの内容に関係なく成立するものであり、それゆえに、pやrの内容に影響を与えませんが、逆にその内容を明示化するのにも役立ちません。」(21回)

しかしこれは拙速でした。現在ならば、次のように言えます。<p∧r┣pが、pとrの意味内容に関係なく成立するということは、この式がpやrの意味内容を明示化するのに役立たないということではなく、この推論においてpとrの意味が保存されているということを意味するのであり、pとrの意味内容は、この推論によって変わらないものとして提示され、構成され、明示化されています。> 同様のことは、論理結合子だけでなく、疑問表現にも成り立つでしょう。

このように<論理結合子と疑問表現が、他の言語表現の意味の明示化に役立つ>ということの説明をこのように拡張するならば、それは<論理結合子と疑問表現が、事実の明示化に役立つ>と言うことの説明も拡張することになるでしょう。これが何を意味するかは、次回から説明します。

投稿者:

irieyukio

問答の哲学研究、ドイツ観念論研究、を専門にしています。 2019年3月に大阪大学を定年退職し、現在は名誉教授です。 香川県丸亀市生まれ、奈良市在住。

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