80 試行錯誤とオペラント条件付け  (20220616)

[カテゴリー:問答の観点からの認識]

(オペラント行動の失敗について考察中ですが、今回は、ソーンダイクの試行錯誤論への寄り道です。)

ソーンダイクの試行錯誤理論の実験で、檻に閉じ込められた犬が、檻から出るために、何をしたらよいのかわからないとき、まずいろいろ動きます。そのなかでたまたまレバーに前足がかかって、檻の扉があきます。この経験から、犬は、レバーを引いて、檻の扉を開けようとするようになります。そして、何度もするうちに、レバーの引き方が次第に上達して、より少ない試行と時間で扉を開けられるようになります。この過程で、レバーをひく行動に上達します。試行錯誤の中で、必要な行為や知覚の精緻化が生じています(この実験については、https://www.youtube.com/watch?v=y-g2OmRXb0gをご覧ください)。

(試行錯誤は、より原始的な生物が、刺激の方向性が解らないとき、よりよい状態を求めて、ランダムに動き回るという「動性(kinesis)」と似ています。そのとき、たまたまその行動がより快適な状態をもたらすこともあるでしょうが、そこから学習することはありません。学習する高等な動物は、その成功の経験の痕跡(記憶)をもとに、オペラント行動するようになったのでしょう。)

犬が檻から出ようとしていろいろ行動するのは、檻からでたいと欲求しているからであり、そのいろいろな行動は欲求を実現するための試行錯誤であり、探索だといえるでしょう。

つまり、試行錯誤(trial and error)は、失敗から学ぶ(learn by mistake)ということでしょうが、もちろん成功から学ぶことも含まれています。

スキナーのオペラント行動論は、ソーンダイクの試行錯誤論の影響を受けていると言われています。オペラント行動には、成功から学ぶ場合と、失敗から学ぶことの両方があります。つまり、オペラント行動もまた、失敗と成功という行動の結果から学ぶことです。

では、オペラント行動と試行錯誤は何が違うでしょうか。試行錯誤理論にかけているのは、行動のきっかけとなる弁別刺激への明示的な言及ではないかとおもいます。ソーンダイクのイヌの実験で、レバーを引くという行動が起きるまえには、檻の中に閉じ込められていることの知覚、レバーの知覚などがあります。この二つが弁別刺激になっていると考えることができます。

このように試行錯誤論には、弁別刺激への言及がないのですが、しかし他方で、オペラント行動論には、試行錯誤過程、つまり適切なオペラント行動の発見の過程への言及がありません。オペラント条件付けにおけるこの弁別刺激は、行為を誘発する刺激(条件反射における誘発刺激のようなもの)ではないとされます。しかし、弁別刺激が与えられた時(たとえば、檻に閉じ込められたことが解った時)に、試行錯誤したり、過去の行動の結果から学んだりするのは、ある刺激や状態を求めているからではないでしょう。つまり、弁別刺激とは別に、ある刺激や状態を求めているという条件がなければ、そのための探索をするということはありえません。それがなければ、試行錯誤も、オペラント行動も成立しません。確認するまでもないことかもしれませんが、試行錯誤もオペラント行動も探索です。

次回は、オペラント行動の失敗から意識が生じるという話に戻りたいと思います。