34 行為内意図と問答 (20210316)

[カテゴリー:問答推論主義へ向けて]

 サールは、意図を、行為内意図(intention in action)と先行意図(prior intention)に区別します。

行為内意図とは、その時進行中の行為について、それをしようとする意図です。コーヒーを飲んでいるときの「コーヒーを飲もう」という意図です。この意図がなければ、行為は成り立ちません。

この意図は、アンスコムいう実践的知識と深く関係しています。アンスコムの言う実践的知識とは、「何をしているの?」と問われたとき、観察に寄らずに即座に例えば「コーヒーを飲んでいます」と答えられるときの答えです。これが知識と呼ばれるのは、これは行為の記述であり、真偽があり、偽の可能性もあるからです。例えば、本人がコーヒーだと思って飲んでいたものが、麦を焦がして作った飲料であるということがあり得るからです。言われてみると、確かにコーヒーとは少し違った味だと気付くということがあるかもしれません。実践的知識は大抵は正しいとおもわれますが、正しいとき、それは行為内意図と次のように関係します。

  「コーヒーを飲んでいます」という実践的知識

  「コーヒーを飲もう」という行為内意図

これらは、「(私は)…しています」と「(私は)…しよう」との違いです。前者は真理値を持ちますが、後者は記述ではないので真理値を持ちません。前者は「何をしているの?」という問いの答えですが、後者はどのような問いの答えとなるのでしょうか。言い換えると、後者はどのようなときに意識されるのでしょうか。これを考えたいと思います。

 行為内意図は、コーヒー(あるいはコーヒーを飲むこと「について」の心的状態であり、志向性の定義に当てはまります。これのS(r)構造(「S」は心理的様態、「r」は表象内容)(『志向性』訳8)は、次のようになるでしょう。

   しようとする(コーヒーを飲むこと)

 行為内意図は、世界を心的内容に適合させるという適合の方向を持ちます。では、この行為内意図の存在を誠実条件とする発話行為は何でしょうか。

 「約束」の発話の誠実性条件は、次に論じる「先行意図」になるでしょう。約束は、未来の行為を約束することであり、その意味でそれは未来の行為を意図する先行意図になりそうです。これに対して、現在の行為を意図しているものに、宣言があります。確かに「開会します」と宣言するものは、「今開会する」ことを意図しています。しかし、宣言型発話の「適合の方向」は、両方向です。つまり「開会します」と宣言することによって開会が実現するのです。宣言型発話が、答えとなる質問としては、「そろそろ開会しませんか?」と問われて、然るべき資格のある人が「開会します」と宣言する場合がありえます。宣言が行われる多くの場合に明示的な質問がなされていないとしても、宣言の発話は、質問への答えとして発話されることが可能です。しかし、これと類比的に、「そろそろコーヒーをのみませんか」と問われて「コーヒーを飲もう」と答える時には、それは先行意図の表明であって、行為内意図の表明ではありません。では、「行為内意図」については、これを誠実性条件とする発話行為がないのでしょうか(ここでは、まだ最終的な答えを出せません。)。

 行為内意図だけを取り上げて考察することは難しいので、次回は「先行意図」との対比によって、明確にしたいと思います。